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広島高等裁判所 昭和40年(ネ)44号 判決

控訴人(申請人) 呉交通労働組合

被控訴人(被申請人) 呉市

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人との団体交渉によつて協議が成立するまで、被控訴人の運営するバスの焼山、態野、苗代線を運行所要時分、ラツシユ時は三一分、普通時は三〇分以内で運行してはならない。被控訴人は控訴人との団体交渉によつて協議が成立するまで、被控訴人の運営するバスの焼山、熊野、苗代線において、同線を運行する運転手(車掌も含む。)に、運転手一人について、一日の運転時分六時間一七分の間に一〇四・二粁以上の運行をさせてはならない。被控訴人はその運営するバスの横路交叉点巡環路線においてワンマンカーの運行をしてはならない。被控訴人はその運営するバスの焼山、熊野、苗代線の運行所要時分および走行距離について控訴人と団体交渉をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに疏明の関係は、左記に付加するほか原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴代理人の主張)

一、燒山、態野、苗代線関係について

(一)  昭和三七年三月二六日控訴人、被控訴人間に締結された労働協約(疏甲第二号証の解決事項5自動車乗務員の労働条件について)中イ項(ニ)は、労働条件の内容たる運行所要時分や走行距離につき、右協約締結当時行われていた基準によるべきことはもちろん、その変更手続についても従前の慣行によるべきことを定めたものであつて、ここに言う従前の慣行の中には、運行所要時分、走行距離、早朝深夜の始発終発時刻などおよそダイヤの変更に伴つて生ずるあらゆる労働条件の変更が、従来ダイヤ検討の名の下に控訴人、被控訴人間の団体交渉(もつとも控訴人は自動車運輸支部に委任して行わせていた。)を経て行われてきたという慣行をも含み、この点双方が互に確認しあつたうえで、該条項の作成をみたのである。被控訴人が昭和三八年二月二一日控訴人に対し、前記協約と同日付でなされた団体交渉に関する協約(疏甲第二号証の解決事項4別紙)第七条(2)に基づく労働基準委員会の開催を申入れた議題の中に被控訴人自身が運行所要時分の適正化を挙げている(疏甲第三二号証参照)こと、昭和三七年四月二四日に行われた両者間の団体交渉の過程で、被控訴人が新たな走行距離に関する協定を控訴人との間に将来締結することを認めている(疏甲第三三号証参照)こと、また昭和三七年一一月一七日被控訴人が控訴人に対し、全路線の運行所要時分について前記労働基準委員会で検討したい旨回答した(疏甲第三一号証参照)こと、加之現に被控訴人の電車運輸のダイヤについては、走行距離協定が当事者間で締結されており、従来もその変更につき、団体交渉によつてその都度新たな協定が結ばれてきた(疏甲第五号証参照)経緯の存すること等に徴しても、右の事実を否定することはできない筈である。

(二)  車輛の機能、道路の整備程度、乗客の数量、路線の交通量等車輛運送に関する客観的条件の変化がない場合はもちろん、本件のごとくたとえ路線の一部変更等客観的条件に変化があつた場合でも、運行所要時分を労使双方の団体交渉によつて定めるのでなければ、自動車乗務員たる組合員は、使用者たる被控訴人側の一方的な意思で、適正化の美名の下に従来よりさらに劣悪な労働条件を押しつけられるという不都合な結果を生ずることとなる。

(三)  走行距離の伸長は、それだけ停車発車の操作回数、客扱いの増加をまねき、自動車乗務員の労働密度を必然的に高くするものであつて、このことはすなわち労働条件の低下を意味するにほかならないから、当然労使間の団体交渉の対象となるべき事項である。本件路線の走行距離が四・三粁伸長したことによつて、従来超過勤務で運行していた失対貸切勤務(中央のりば、押込間の路線とほぼ同距離の区間)が往復約四回分実働時間内で運行されるようになつたことをみても、それだけ労働条件が低下をきたしていることは明らかである。

二、横路交叉点巡環線のワンマンカーの運行について

昭和三六年四月一二日控訴人、被控訴人間になされた「自動車ワンマンカーについて」なる協定は、単に危険の予想される路線で自動車ワンマンカーの運行を実施しないという内容を有するにとどまらず、ワンマンカー実施については労使双方が協議をとげ、互に円満了解したうえ、実施すべきことをも定めたものであるから、右の実施については、これを団体交渉の対象とすべき当事者間の合意が存するものと言わなければならない。しかるに被控訴人は控訴人との間になんら団体交渉を経ることなく、昭和三八年七月二二日以降ワンマンカーを運行させるにいたつたものである。なおこの路線におけるワンマンカーの運行は、たとえ現在まで事故が発生していなくても、何時如何なる事故が発生するやもはかりがたい状態にあり、前記協定にいう危険を予想される路線に該ることは疑いないのである。

(被控訴代理人の主張)

控訴人の右主張事実中原審において被控訴人が認めた事実以外はすべて争う。

運行所要時分は、被控訴人が原審以来一貫して主張しているように、企業管理者の決定すべき管理運営事項であつて、その性質上、労使間の力関係に左右される団体交渉の場で定まるべき筋合のものではない。被控訴人の営む自動車運送事業は、道路運送法による免許事業で、免許後事業計画を変更するときも県知事の認可を受けなければならず(同法第一八条、第一二二条第一項、同法施行令第四条第二項第一号)、この事業計画のうちには、運行所要時分も含まれている(同法施行規則第六条九号)のであるから、その変更も県知事の認可がなければ実施しえないのである。そして同法にいう事業計画とは、企業管理者がその責任において決定すべき管理運営事項を指すこと明らかであるから、事業計画のうちに運行所要時分が含まれているということは、とりもなおさずそれが管理運営事項にほかならないことを示していると言うべきである。したがつてこれを被控訴人において団体交渉の対象となしえないし、またなすわけもないことは明らかである。

(疏明関係省略)

(控訴代理人が当審においてした新たな仮処分申請)

一、申請の趣旨

被控訴人は、控訴人との団体交渉によつて協議が成立するまで被控訴人の運営するバスの天応、川尻線を運行所要時分、ラツシユ時は七七分、普通時は七四分以内で運行してはならない。被控訴人は、その運営するバスの天応、川尻線の運行所要時分について控訴人と団体交渉をせよ。との判決を求める。

二、申請の理由

被控訴人の運営にかかる天応、川尻線(大屋橋から月の浦まで)のバス路線の運行所要時分は従来ラツシユ時七七分ないし七八分、普通時七四分であつたところ、被控訴人は昭和三九年七月一日、控訴人との間に団体交渉をなすことなく一方的にこれを改定し、ラツシユ時七二分、普通時六七分と短縮し実施した。

右路線の距離は片道二五・九粁あり、そのうち七七パーセントをしめる一九・九五粁は交通法規によつて最高速度四〇粁の制限をうける区域であり、他は同じく最高速度五〇粁の制限をうける区域である。この路線には、停留所が五八ケ所もあり、改定前と比較して交通量も増加しているうえに、横断歩道等の通行諸制限も急増し、以前に比較して運行所要時分を短縮するに困難な条件が増えている。被控訴人はこのような客観的な事情を全く無視して、合理化、労働者収奪の一環として運行所要時分短縮を一方的に強行実施したのである。したがつて所定ダイヤどおりに運転しようとすれば制限速度違反の運転をするほかない有様である。前述のごとく横断歩道が増えているほかに、本路線中広交叉点、本通一三丁目間の電車停留所には安全地帯がないので、電車の乗降客が運行の妨げとなつているが、とくにラツシユ時には電車停留所附近が混雑し、そのためバスの運行は相当遅れ、この遅れを他区間で取り戻すのに速度を上げるため全区間の半分以上の区間で速度違反の運転をすることを強要されている。被控訴人の手持資料によつてさえ、ダイヤどおり運転するためには、平均時速三七ないし三八粁、最高時速四〇ないし五七粁の速度で走行しなければ不可能であることが明らかになつている。被控訴人は、以前はタコグラフの解析によつて違反者を呼びつけて注意をしていたが、最近は全くそのようなことをやつていない。これは速度違反者を公然と注意することができないほど無謀なダイヤであることを示している。

もともと交通法規による最高速度の制限は、道路の状況、交通量等を考慮し、安全な通行が保てる限度を引いたものであるから、これを超過する速度で常時自動車を運転していなければならないということは、事故発生の高度の危険性をたえずともなつていることを意味し、また運転手も車掌も極めて密度の高い注意力の集中を要求されているということなのである。さらに被控訴人が一方的にダイヤを組んでいるため、食事時間のとりかたが悪く身体の変調を訴える者が最近目だつて増加している。苛酷なダイヤに従つた運転による過度の疲労、睡眠時間の減少、食事時間の不適切等自動車乗務員の健康を脅かす要素が増加している。このことはまたさらに事故発生の危険性を増大させているのである。

交通事故を防止し、安全運転を行うという観点からも、乗務員の健康を確保するという観点からも、運行所要時分は管理者が一方的に設定すべきものでなく、労使が対等の立場で団交によつて決すべきものである。

その他焼山、熊野、苗代線の運行所要時分につき、控訴人の主張したところを採用する。

(新たな仮処分申請に対する被控訴代理人の答弁)

一、本件申請を却下する。との判決を求める。

二、控訴人の主張事実中、被控訴人が天応、川尻線のバス路線の運行所要時分を、控訴人主張の日時に改定したこと、天応、川尻間の距離が片道二五・九粁であることは認めるが、その余の事実はすべて争う。右運行所要時分は、従前ラツシユ時七五分ないし七六分、普通時七四分であつたのをラツシユ時七一分ないし七四分、普通時六七分としたのであつて、これが改定の手続は従前の改定と同一の方法にしたがつたまでであり、同路線のうち、交通法規によつて最高速度四〇粁の制限をうける区域は一九粁、同五〇粁の制限をうける区域は、六・九粁である。

三、なお、新たな仮処分申請の追加申立については異議がある。仮処分手続には、民事訴訟法第二三二条の規定が準用されるとは解しえないし、かりに準用されると解しても控訴人のなした新たな仮処分申請は、従前の本件仮処分申請とは全く別個の路線に関するもので、被保全権利の基礎が同一でないから、いずれにしてもかかる追加申立は許されるべきでない。

理由

当裁判所もまた原判決と同様控訴人の本件申請をすべて失当と判断したが、その理由は左記に訂正付加するほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

控訴人主張の労働協約が、果してその主張のごとく本件焼山、熊野、苗代線につき、運行所要時分ないし走行距離に関する基準を設け、かつその変更手続を当事者間の団体交渉の結果によるべき旨定めたものであるか否かにつき按ずるに、成立に争なき疏甲第二号証中解決事項の5「自動車乗務員の労働基準について」と題する部分は、弁論の全趣旨に徴し、控訴人主張の労働協約なることがうかがえるところ、そのイ項(ニ)には、「その他については、現在の慣行を基準とする。」旨の記載があり、同項の(イ)(ロ)(ハ)には、運行所要時分ないし走行距離の定めが記載されていない点に鑑み、控訴人の右主張の当否は、もつぱら(ニ)の記載内容を如何に解するかにかかつていると言えるのである。いつたい労働協約は、それが効果的に機能するためには、その内容において具体的かつ明確なることを要すべく、ことに控訴人は、右条項をもつて運行所要時分ないし走行距離等の労働条件につき基準を定めたものと主張するのであるから、してみれば同条項はその限りにおいて、労働組合法第一六条所定の規範的効力を与えられることになるのであつて、いやしくも当事者間にそれが基準たりうるためには解釈によつて補いうる程度の具体性をそれ自体有しなければならないものと解するを相当とする。しかるに前記(ニ)の条項は、あまりにもその内容が漠然としすぎていて、該協約締結当時一体いかなる慣行が存し、そのうちいかなる部分が果して労働条件の基準と呼ぶに応わしい内容をもつていたのか、そしてまたいかなる範囲が協約の対象として当事者間の意思の合致をみたのかについて、該条項の文言自体からは何らうかがい知るよすがさえなく、これをもつて控訴人主張の基準を定めることをその内容として含んでいるとは到底考うべくもない。加之該条項が成立する過程において、運行所要時分ないし走行距離につき、具体的に労働条件の基準を定める旨の合意が当事者間においてなされたとするに足る疏明はない。却つて、前顕疏甲第二号証中解決事項の4別紙によれば、当事者間の団体交渉に関する協約第三条をもつて、管理運営に関する事項は、これを団体交渉の対象となしえず、それが同時に労働条件にも関連している場合には、控訴人、被控訴人間で協議をとげたうえ、これを団体交渉の対象となしうる旨定めており、しかもこの協約は、昭和三七年三月二六日、すなわち本件紛争の焦点となつている自動車乗務員の労働基準についてと題する前記労働協約と同じ日に締結されたことが明らかなるところ、運行所要時分のごときは、企業活動の基本たるダイヤ編成の前提であり、また走行距離もダイヤ改正に伴う勤務編成替等によりある程度伸縮することは避けえない筋合であるから、いずれも管理運営に関する事項の範囲に入ると解するのが相当であつて、控訴人主張のようにそれが同時に労働条件に関するものであるとしても、前記団体交渉に関する協約第三条の趣旨にしたがい、まず当事者間に、これを団体交渉事項とするか否かについての協議がとげられるべきであるのに、全疏明をもつてするもかかる所定の協議がなされたことはうかがいえないのである。

果してしからば、控訴人の運行所要時分ないし走行距離につき労働協約上の基準が存し、またその基準の変更が労働協約上団体交渉の対象たる事項となつているとの疏明は結局ないことに帰すると言わざるをえない。

次に横路交叉点巡環線のワンマンカーの運行について控訴人の主張を検討するに、成立の争のない疏甲第五号証によれば、昭和三六年四月一二日当事者間において、自動車ワンマンカーは坂道曲線の多い危険を予想される路線には実施しない旨の合意がなされたことをうかがうことができるのであるが、前顕疏甲第二号証、成立に争のない疏乙第二号証、原審における被控訴人代表者山本辰己の審尋の結果、当審証人加藤信の証言および弁論の全趣旨を綜合すれば、前記「自動車乗務員の労働基準について」と題する労働協約は、昭和三六年頃以降ワンマンカーの導入をめぐつて社会問題化した合理化反対斗争を収拾するための当事者間の合意にかかる解決事項の一環であるところ、当時被控訴人においては、すでに本巡環線のワンマンカーの運行計画を有し、控訴人はこの計画の実施について反対していたのであるが、昭和三七年三月二六日にいたつて、双方の間に合意が成立し、右協約のニ項をもつて、これが実施の旨を明らかにしたものであることが認められ、原審における滝本高男に対する審尋の結果中右に反する部分は前顕各疏明に照し、措信できず、これを覆えすに足る疏明はない。してみれば、たとえ本路線が控訴人主張のように危険の多い路線であるとしても、この協約の条項にしたがつて、前記昭和三六年四月一二日当事者間になされた協定のうち、控訴人主張の部分は、少くとも本路線のワンマンカー運行に関する限り、右協約の締結日以後被控訴人を拘束するものでないと言わざるをえない。

以上本件申請は控訴人主張の被保全権利につき、いずれも疏明がないことに帰し、かつ保証をもつて疏明に代えることは相当でないから、結局同趣旨に出でた原判決は正当であつて、本件控訴は棄却を免れない。

なお、控訴人は当審において天応、川尻線につき、新たな仮処分申請の追加申立をしたが、該申請は、本件申請とは別個の路線に関するもので、両者の間に申請の基礎が同一であるとは認められないのみか、そもそも新たな申請は、本案裁判所の専属管轄に属すべきものであるから、かかる追加申立は、これを許容すべき限りでない。

よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅芳郎 裾分一立 横山長)

〔参考資料〕

仮処分申請事件

(広島地方呉支部 昭和三八年(ヨ)第四六号 昭和三九年一二月四日 判決)

申請人 呉交通労働組合

被申請人 呉市

主文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

申請代理人は、「被申請人は申請人との団体交渉によつて協議が成立するまで被申請人の運営するバスの焼山、熊野、苗代線を運行所要時分、ラツシユ時は三一分、普通時は三〇分以内で運行してはならない。被申請人は申請人との団体交渉によつて協議が成立するまで、被申請人の運営するバスの燒山、熊野、苗代線において、同線を運行する運転手(車掌も含む)に、運転手一人について一日の運転時分六時間一七分の間に一〇四・二粁以上の運行をさせてはならない。被申請人はその運営するバスの横路交叉点巡環路線においてワンマンカーの運行をしてはならない。被申請人はその運営するバスの焼山、熊野、苗代線の運行所要時分および走行距離について申請人と団体交渉をせよ。申請費用は被申請人の負担とする」との裁判を求め、その理由として

一、申請人は被申請人の営む公営企業、呉市交通局(企業管理者交通局長山本辰己)に勤務する労働者の一部をもつて組織する労働組合(組合員二六〇名位)である。

二、ところで申請人は呉市交通局(当時の企業管理者は中邨末吉)との間に、昭和三七年三月二六日「覚書」と題する労働協約を締結したが、その中で自動車乗務員の労働基準として、覚書五イ項において、(イ)実働時間、(ロ)ツーマンカーの実ハンドル時間、(ハ)ワンマンカーの実ハンドル時間をそれぞれ具体的に協定し、(ニ)その他の労働条件については締結当時の慣行を基準とすることを確約し、且つ将来においても労働条件に関する事項はすべて団体交渉の対象とすることを確認した。右(ニ)のとおりその他の労働条件について従来の慣行を基準とする旨を協定した所以は、自動車乗務員の労働条件を定める要素として主要なものは賃金、実働時間、ハンドル時間、運行所要時間(始点から終点までの所要時間)、走行距離であるところ、右の運行所要時間、走行距離については当時運行業務の慣行によつて定まつていたものを、そのまま労使双方で承認したうえ、これを協約に採り容れたものである。

またこれより先の昭和三六年四月一二日申請人組合は団体交渉によつて交通局との間に、自動車ワンマンカーの運行は坂道、曲線の多い危険を予想される路線には実施しない旨を協定した。

三、しかるに被申請人交通局は、その焼山、熊野、苗代線(国鉄呉駅前中央のりばより焼山小学校前まで片道七・七粁のバス路線)について、従前の運行所要時間はラツシユ時は三一分、普通時は三〇分、業務員一人あたりの一日分の走行距離一〇四・二粁であつたのを、団体交渉による何らの妥結もみないまま昭和三八年七月二二日これを一方的に運行所要時間、ラツシユ時二七分、普通時二六分、乗務員一人あたりの一日分の走行距離一〇八・五粁と改定し、爾来これを強引に実施している。

更に同交通局は右同日より横路、交叉点巡環線にワンマンカーを運行させるに至つたが、同路線中特に広警察署前から交叉点までの区間約八〇〇米は繁華街が続き、学校、幼稚園等の幼児の通行の多い施設もすくなくないうえに、国鉄バス、その他一般車輛の往来も頻繁であつて、最も危険な路線の一つであるのに、同路線に交通局が車掌の乗務しないワンマンカーを運行させたことは早晩大きな交通事故を惹起させることが明らかで、甚しい暴挙といわざるを得ない。

四、これに対して申請人組合は交通局側に対し横路、交叉点巡環線におけるワンマンカー運行を即時撤廃し、且つ焼山、熊野、苗代線の運行所要時間について団体交渉を持つよう再三申入れたが、交通局側は右事項はいずれも企業管理者の専決にかかる管理運営に関するものであると強弁してこれに応じない。しかしながら右事項は直接従業員の労働条件の内容を構成している重要な要素であり且つ先に労使間において、これを団体交渉の対象とする旨の協定を締結したものであるに拘らず、今日に及んで使用者にその決定権限が帰属するという理由をもつて団体交渉を拒否することは労働組合を無視するもので、甚しく違法であり、明らかに不当労働行為というべきである。

五、そこで申請人組合は前記協約によつて組合員の労働条件および業務の安全の保障をとりつけたに拘らず交通局側がこれらを全く無視し、焼山、熊野、苗代線の運行所要時分の短縮、走行距離の増加および横路、交叉点のワンマンカーの運行をそれぞれ強行したことによつて危険な業務に従事している申請人組合員に対し如何なる危険を惹起させるかもはかり知れない状況にあつて、組合はこれらの労使関係につき著しい不安と不利益を免れず、甚大な損害を被つているので本件仮処分申請に及んだ

と述べた。

被申請代理人は、主文と同旨の判決を求め、申請理由に対する答弁として

呉市交通局と申請人組合との間において、申請人主張の日時に主張の文言の覚書が締結されたこと(但し「自動車ワンマンカーについて」は団交による妥結事項であつて労働協約として締結されたものではない)、昭和三八年七月二二日より主張の焼山、熊野、苗代線の運行所要時分を主張のとおり改定して運行していること、および同日より横路、交叉点巡環線にワンマンカーを運行させていることはいずれも認めるが、右事項が主張の如く先に労働協約によつて協定されていたものであるとの点およびこれらを実施した被申請人の所為が不当労働行為に該当する旨の主張はいずれも否認する。すなわち

一、運行所要時分および走行距離について

これについての申請人主張の覚書は昭和三五年一〇月頃よりのワンマンカー導入をめぐつて生じた労使間の長期間にわたる紛争の結果、双方とも当時の現状を確認して事態の収拾をはかる以外に解決の端緒を見出し難いことを了解して、右紛争を解決するために協定したものであつて、申請人主張の覚書五イ項(ニ)の「その他現在の慣行」とは何を指称するかについては格別の討議もなく、極めて漠然とした内容のまま協定条項にもりこまれたもので、同項は単に当時の慣行的事実を抽象的に確認したものにすぎず、これをもつて労働条件の基準とする旨を協定したものではない。

元来運行所要時分(一路線の始点から終点まで幾時分で走行するかを定めたもの)は、企業活動の基本となる「ダイヤ」を編成する前提となるものであり、且つ道路交通、車輛、その他諸般の事情の変動により、これらに適合するよう改正すべきものであつて、明らかに企業管理者の決定すべき管理運営事項に属する。従つてその性格上これをもつて労働協約の対象とはなし得ず、また一時点において各路線ごとに運行所要時分が定まつていた事実をもつて「慣行」となつているとはいい得ないものである。

次に走行距離(従業員が一日のハンドル時間内に運行する距離)はハンドル時間を定めることによつて必然的に決定されるものであると共に、表定速度(運行系統の距離を運行時分で除したもの)の変更およびダイヤ改正に伴う勤務編成替等により結果的にある程度伸縮するものである。このため走行距離を明示することは事業運営上はなはだ困難であり、まして労働協約をもつてこれを協定することは、使用者の管理運営権を制肘する不当な結果をもたらすことが明らかである。他面、走行距離は労働条件と全く関係がないとまではいえないけれども、走行距離が数字的に伸長した場合でも、これをもつて直ちに実質的な労働強化をもたらすものとは必らずしもいい難い(例えば未舗装の不良道路を一日六往復する場合と、これが舗装されて完全な車道が出来た路線を七往復する場合とを比較すれば後者が前者より労働強化になるとは必らずしもいい難い)。また運行所要時分の適正化によつて余剰運転時分が生じた場合には、従業員の労働条件改善の面からは、むしろその余剰運転時分だけハンドル時間を短縮すべきものである。かようにハンドル時間を短縮すれば、これによつて必然的に走行距離の過大な伸長を規制できるのであるから、団体交渉の場においてはハンドル時間を協議決定すれば、これによつて走行距離は一応当然に定まるものであつて、走行距離それ自体を労使間の共同決定事項とすべき事由は見出し難い。前記覚書の締結に際して組合側から走行距離を明示するよう強い要求があつたが、結局労使双方とも走行距離の右の如き性質から、それ自体を規制しなかつた従来の慣行に則り、労働量の規制は走行距離と密接な関係をもつハンドル時間を協定した(覚書五イ項(ロ)(ハ))ことによつて妥結し、走行距離の伸長はハンドル時分の短縮をもつてまかなうこととして、走行距離自体は団体交渉の対象としないことを確認のうえ、右覚書を締結したものである。

従つて運行所要時分および走行距離は覚書五イ項(ニ)によつて制限されているものでないことは勿論、それ自体の性質から団体交渉の対象とならないものであるから、被申請人は右事項を変更するについて申請人組合と団体交渉すべき債務を負担するものではない。

もつとも運行所要時分の変更については、従来ダイヤ編成の後に組合関係支部との間で行われる勤務編成の協議(団体交渉ではない)の際に、同時に組合支部の意見を聴くための協議をもつ慣行が存し、燒山、熊野、苗代線の場合は路線の一部変更によつて新たに適正な運行所要時分を定めるものであつたため、申請人組合に対してもダイヤ編成の前である昭和三八年六月二日に運転時分の合同調査の申入れをなし、同月三日右調査を実施し、その後同年六月二一日および七月一日申請人組合自動車運輸支部と協議した結果、ラツシユ時二七分、普通時二六分とすることで大体意見の一致をみたが、申請人組合は最終的に右事項は団体交渉において決定すべきものであると主張して遂に協議が成立するに至らなかつたので、被申請人はその権限に基きこれを実施した。従つて右協議がまとまらなかつたのは、全く申請人組合が自己の見解を固執したためであるから、被申請人が右路線の運行所要時分を決定実施した所為は、何ら申請人の団体交渉権ひいては団結権を侵害したものではない。

二、横路、交叉点巡環線のワンマンカーの運行について

右路線のワンマンカーの運行は前記昭和三六年一二月一日付覚書の締結以前より交通局において計画されていたもので、昭和三六年には既に組合に対しても計画を提示して協議したが、道路の運行規整等の関係で実施が延期されていたにすぎず、その実施は右覚書五ニ項に基くものである。また申請人主張の昭和三六年四月一二日付「自動車ワンマンカーについて」は労働協約でなく団体交渉において妥結した事項であつたが、これは前記覚書の締結によつて当然に失効した。けだし右覚書は従来のワンマンカー実施に関するかような妥結事項も含めて全面的に紛争を解決するため協定されたものだからである。

しかしながら、この企業にとつては輸送の安全性は最大の使命であるから、昭和三八年五月二八日に組合と合同で現地調査を実施し、且つこれについて組合支部の意見を聴すべく同年六月二一日以降再三その協議申入をなしたが、組合がこれに応じないため被申請人においてその安全性について充分に検討した結果、確信を得たので、前記覚書に基き運行を実施した。

また同路線のワンマンカーの運行については、申請人組合に加入している従業員は全く乗務に従事していないから、申請人組合は右運行の実施が協約に違反しあるいは交通事故発生の危険性があるとしてその運行の停止を求めるべき何らの被保全権利をも有しない。

三、仮にそうでなく被申請人が本件各事項につき申請人組合に対して団体交渉に応じなかつた所為が、それぞれ組合の団結権を侵害するものであるとしても、団結権の侵害行為に対しては妨害排除請求権までは認められないから、申請人のこの点に関する請求はすべて被保全権利を欠くものというべきである。

四、保全の必要性について

燒山、熊野、苗代線の運行所要時分の設定に当つては、被申請人交通局において前記の如き方式によつて組合側の意見も徴する等誠意を尽すと共に、輸送の安全性について十分検討したうえで適正時分を決定したものである。また同路線における走行距離の変更については路線の一部が変更した場合であるから旧路線の走行距離と比較することは意味がないのみならず、走行距離が多少伸長しても、これをもつて直ちに労働内容が変化したとまで断定し難いことは前記の通りである。いずれにしても同路線における本件運行所要時分の設定および走行距離の変更は旧路線に比較して輸送の安全性を高めるものでこそあれ低下させるものではなく、いわんやその運行につき申請人組合員に危険性が現存する事実はない。なお申請人組合の右運行所要時分および走行距離についての団体交渉の申込みを被申請人が拒否するのは、前記のとおり正当な理由に基くものであるから、これをもつて組合の団体交渉権ないし団結権を侵害する危険性ありとはなし得ない。

次に横路、交叉点巡環線のワンマンカー運行については、申請人組合員は乗務していないから、その危険性を問題とする余地がない。

五、以上の次第で、いずれにしても本件仮処分申請は理由がなく失当である。

と述べた。

(疎明省略)

理由

申請人は被申請人の営む公営企業、呉市交通局に勤務する労働者の一部をもつて組織する労働組合であるところ(昭和三九年九月一九日現在において、その全従業員約一、〇二〇名中、同組合の加入者は二六〇名である)、申請人組合と被申請人交通局との間に昭和三七年三月二六日覚書と題する労働協約を締結し、その五イ項(ニ)に申請人主張のとおりの文言が表示されたこと、それより先の同三六年四月一二日右両者間の団体交渉によつて申請人主張のとおりの文言をもつて、「自動車ワンマンカーについて」と題する妥結事項を成立させたこと、昭和三八年七月二二日以降被申請人交通局において焼山、熊野、苗代路線の一部路線変更に伴いその運行所要時分を申請人主張のとおりに改定し、これによつて結果的に乗務員一人当りの一日分の走行距離が主張のとおりに伸長されたこと、右同日より横路、交叉点巡環線にワンマンカーを運行させていること、右両事項について申請人組合から被申請人交通局に対し、団体交渉をもつて協議決定すべき旨申入れたが、交通局側はこれらをいわゆる管理運営事項であるとして右申入に応じなかつたことは当事者間に争いがない。

第一、焼山、熊野、苗代路線関係

まず申請人主張の昭和三七年三月二六日付「覚書」と題する労働協約が締結されるに至つた経緯を考えてみると、成立に争のない疎甲第二号証および弁論の全趣旨を綜合すると、申請人組合と被申請人交通局との間に昭和三五年一〇月頃からワンマンカー(主として電車の)導入をめぐつて紛争が生じた結果、申請人組合の委任を受けた訴外日本都市交通労働組合連合会、同中国地方協議会、呉市職員労働組合連合会の三者が交通局側と交渉を累ねた結果、昭和三七年三月二六日覚書の形式をもつて1、組合は交通局の電車ワンマンカーの実施には反対しない旨を確認したうえで、同時に、2、時間外および休日労働に関する事項、3、合理化に伴う事項、4、団体交渉に関する事項、5、自動車乗務員の労働基準に関する事項、6、7、8、初任給、諸手当および前記紛争をめぐる訴訟事件の取下げ等を協定したことを認めることができる。

ところで証人宮下一義の証言によつて成立を是認できる疎甲第二一号証、成立に争のない疎甲第二六、第二七号証、乙第一号証および証人宮下一義、同福島弘見、同滝本高男の各証言に弁論の全趣旨を綜合すると、呉市営バス焼山、熊野、苗代線の運行所要時分および走行距離はラツシユ時三一分、その余の普通時三〇分、一〇四・二粁であつたのを、同路線中山手橋―野間園間に新道路が開道したため同区間を新道に路線変更すべく昭和三八年六月三日(月曜日)に交通局側は申請人組合書記長ほか三名の参加を得て、同路線の運行所要時分に関する実地調査を遂げたうえ、申請人組合に対し従前の慣行に基き右路線の運行所要時分の設定に関する協議を行うべく申入れ、これによつて申請人組合自動車運輸支部と二回にわたり協議をもち相当の歩み寄りをみたが、最終的に申請人組合において同事項は団体交渉によつて協定すべき労働条件の変更である旨主張するに対し、交通局側においては管理運営事項であつて団体交渉の対象にならないとして譲らなかつたため遂に協議が成立するに至らなかつたこと、その後の同年七月一〇日付をもつて右路線変更の認可が広島県陸運局より下付されたので、遂に交通局は右変更した路線による運行所要時分をラツシユ時二七分、その余の普通時二六分と定めたうえ、同月二二日以降右時分によつて同路線の運行を開始したこと、右路線および運行所要時分の改定に伴い結果的に、同路線の運行業務に従事する運転者および車掌の一日当り走行距離が、従前の一〇四・二粁より一〇八・五粁に伸長したことを認めることができ、他に以上の認定を左右するに足る資料はない。

そこで申請人、被申請人両者の間に本件のように路線の一部変更に伴う運行所要時分ないし走行距離の設定について、団体交渉によつて協定する旨の合意が成立していたかどうかについて考えてみる。まず運行所要時分が乗務員の労働条件に含まれるかどうかについては、車輛の機能、連絡の整備程度、乗客の数量、路線の交通量等に格別の変動がないのに運行時分を短縮し、結果的に走行距離を伸長させることは従前に比較して当該乗務員の労働条件を低下させるものであるから、前記覚書5イ(ニ)4協約第三条に照らし団体交渉によつて組合の承認を要するものというべきである。しかしながら前記の如き車輛運送に関する客観的な諸条件が変化した場合には、これに応じて適正な運行時分を設定実施することは公企業を営む被申請人の使命とするところであるから、企業管理者の管理運営権限に一任されておるというべく、地方公営企業労働関係法第七条第一項、前記覚書4、協約第三条第三項によつて団体交渉の対象とならないことが明らかである。ところで本件の場合は路線自体の一部変更(これが被申請人の管理運営事項であることは勿論である)に伴う場合であるから、これについての適正な運行所要時分を設定することは路線変更に伴う当然の附随事項であるからというべく従つて、管理運営事項に含まれるものとして団体交渉の対象とはならないものというべきである。もつとも従来かかる場合においても交通局側は組合関係支部と協議をもつ慣行があることは前記認定のとおりであるけれども、前掲証拠によると右は同事項が乗務員の労働内容を直接構成する要素であることから、管理者側の独断決定を避け、関係組合員と協議してその意見を十分に管理者側に反映させると共に、他方交通局側の趣旨とするところを組合を通じて関係乗務員により了解させ、出来る限り労使双方の相互理解と納得の上に、ことを決定しようとする趣旨で右協議が行われてきたものであることが認められ、他に以上の認定を覆えし、本件の如き場合の運行所要時分の設定を団体交渉によつて行う旨の労働協約が成立している旨の申請人の主張を認めるに足る資料はない。

また本件路線の変更および運行所要時分の設定実施によつて同路線に乗務する運転手および車掌の一日当り走行距離が従前(旧路線)の一〇四・二粁より四・三粁伸長されたことは前記認定のとおりであるが、本件立証を検討しても同路線の自動車乗務員の労働条件が従前のそれに比較して、右程度の走行距離の伸長によつて直ちに低下したとまでは認めるに足る資料はないのみでなく、成立に争のない甲第四号証、乙第二号証、証人加藤信の証言および被申請人代表者審尋の結果を綜合すると、走行距離は各路線の長さと、その運行時分および乗務時間(ハンドル時間)が定められることによつて当然に算定できるものであるけれども、右のような性質上各路線によつて相当の長短があるほか、乗務員の勤務編成の態様によつても更に変動するものであることから、労使双方の間にこれをもつて労働条件を定める基準とする旨の合意が成立した事実はないことが認められる。右認定に反する証人宮下一義、同滝本高男の各証言および右滝本高男審尋の結果は信用し難く、以上の規定を覆えし、他に走行距離が前記覚書5イ(ニ)の概括事項に含まれている旨の申請人の主張を認めるに足る資料はない。

第二、横路、交叉点巡環線のワンマンカーの運行について

成立に争のない甲第五号証により、申請人、被申請人間に昭和三六年四月一二日の団体交渉によつて、「自動車ワンマンカーの運行は危険な路線について実施しない」旨の妥結事項が成立したことが明らかであるところ、被申請人は右合意は前記昭和三七年三月二六日の覚書が成立したことによつて当然に失効した旨主張するけれどもこれを認めるに足る資料が何もないので、右主張は採用できない。

ところで証人福島弘見、同宮下一義の各供述によつて成立を是認できる甲第一九、第二五号証および右証人両名の供述を綜合すると、同路線中申請人主張の部分は相当に交通量が多く、道路の巾員等からみて自動車の運転者が特に注意を払わなければならない道路の一つであることが窺われるけれども、更に証人加藤信の証言および被申請人代表者審尋の結果に弁論の全趣旨を綜合すると右路線にワンマンカーを運行させることは被申請人交通局の企業合理化の一環としてかねて計画していたものであるが、公安委員会による同路線の交通規制に不備な点があつたので暫時その実施を延期していたところ、漸く規制も整いかつ広島県陸運局の認可も下りたので、昭和三八年五月二八日組合側の参加を得て現地を合同調査したうえ、更に組合の意見を聴くべく協議の申入を行つたが、組合側がこれに応じなかつたので、遂に同年七月二二日より右運行を実施するに至つたこと、および爾来昭和三九年九月一九日現在までその運行について何ら交通事故は発生していないことを認めることができるので、彼此較量すると同路線のワンマンカー運行が他の路線と比較して特に危険であるとまでは認め難く、他に以上の認定を覆えし、同路線のワンマンカー運行実施が前記妥結事項に違反する旨の申請人の主張を認めるに足る疎明はない。

第三、結び

以上の次第で申請人の本件仮処分申請はいずれも被保全権利の疎明がないことに帰し、この点について保証をもつて疎明に代えることは相当でないので、申請全部を失当として却下し、なお訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 滝口功)

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